新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的蔓延により、今世界は重大な危機に瀕している。2019年11月22日に中国湖北省の武漢市で「原因不明のウイルス性肺炎」として最初に症例が確認された後、この感染症は翌2020年に入り中国から世界へと瞬く間に拡大していった。
今日も新型コロナウイルスは欧米を中心に急速に広がっており、6月5日現在で感染者数は約660万人、死者数は約40万人にもなっている。SARSやMARSは流行しなかった日本でも今回の新型コロナウイルスは全国で感染が拡大し、今は4月に比べ少し落ち着いたものの未だ感染者数は増え続けている。日本では6月5日現在で感染者数は約1万7千人、死者数は約900人となっている。この数は、欧米諸国よりは格段に少ないものの、アジア諸国の中では感染者数、死者数共に中国に次いで2番目に多く、率においても非常に高い水準となっている。
まだ決定的な治療薬、ワクチンが開発されていない中、新型コロナウイルスとの闘いは数年にわたる長期の闘いを強いられると予想されている。同時に大きな問題なのは、経済的な打撃が非常に深刻になっていくことである。2008年からの「リーマン・ショック」を遥かに超え、世界は第二次世界大戦以降最大規模の経済危機に陥ると言われている。
病気そのものについての分析は専門家に任せたいと思うが、ここで考えたいのは「新型コロナウイルスの爆発的感染と世界」について政治経済的にどう見るのかということである。この新型コロナウイルスの感染が欧米を中心に爆発的に拡大したことは、私たちに何を問いかけているのか。私は米国を中心とする欧米資本主義諸国が推進してきた新自由主義政策とグローバリズムの問題性を如実に見せてくれたと考えている。
東西冷戦が崩壊した1990年代を前後して、欧米や日本などの資本主義諸国は徹底した新自由主義政策を推し進めてきた。経済の自由競争が追及される中、「大きな政府」から「小さな政府」へと転換され、規制緩和が進められ、雇用は自由化、流動化され貧富の差が拡大するとともに、社会保障はどんどん削減されていった。
私たちが住む日本においても、特に2001年に発足した小泉政権以降加速度的に市場原理主義、競争至上主義を重視した新自由主義政策が推進された。その下で極端な「官から民」への政策が推し進められ、「効率的な医療システム、福祉システム」へと移行を進められる中、医療改革の名の下医療費の自己負担を増やし社会保障が大幅に削減されるとともに、公立の医療機関や保健所をどんどん減らしていった。このような政策の結果、いざ今回のように感染症が爆発した時にそれを防ぐことができなかったと言えるのではないだろうか。実際に日本全国にある保健所は1990年代初めに比べ40%以上も削減されており、PCR検査体制の脆弱さが感染拡大の要因になったと言われているが、背景にはこのような問題があったと言える。
同時に新型コロナウイルス拡大による経済的影響が富裕層より新自由主義政策推進の下増大した貧困層により深刻な打撃を与えていることも見逃すことはできない。
今盛んに「『ポストコロナ』の世界」が議論されているが、そのほとんどは小手先の技術的な話ばかりである。しかし、冷戦以降、欧米資本主義諸国による覇権主義と、その下で推進されてきた新自由主義政策とグローバリゼーションの本質的問題を私たちは今しっかりと捉え、「ポストコロナ」の世界を描くべきではないだろうか。
(金賢一〔京都同胞生活相談センター所長〕)